アベノ混同(ミックス)十戒埼玉新聞(2013年11月26日)

アベノ混同(ミックス)十戒

森村誠一

 一、特秘保護法案は民主主義に対する挑戦です。
「民は由らしむべし、知らしむべからず」を前提とした特秘法案は、国民の知る権利を制限、あるいは抑圧、そして基本的人権の悉(ことごと)くを奪った、かっての日本軍国主義で十分に経験しているはずです。

 二、歴史的、また世界的にも特定秘密は権力維持のためにあり、国家安全保障を大義名分にして国民の基本的人権を圧殺します。秘密の特定は、権力が押しつける悪法となります。

 三、悪法の発案時は、その範囲は狭く弱いけれども、いったん成立、公布されれば、必ず強化、拡張されます。
例えば元禄期、「生類憐みの令」は動物愛護の精神から発して、鳥一羽殺しても、人命まで処刑の対象に拡大しました。
治安維持法は、本来は関東大震災の治安維持を目的としたのが、太平洋戦争と共に思想、表現などの自由を圧殺しました。

 四、情報管理人の「適性評価制度」はプライバシーの侵害と同時に、法案を提出した政府にとって都合のよい人物を選ぶことです。

 五、改めて特秘保護法案などを提出するまでもなく、国家公務員法や自衛隊法など、既成の法律によって国家機密は保護されています。既成の秘密保全法案が甘いと指摘して、特秘法案が案出されたのも、悪法の強化、拡張の見本です。

 六、特秘保護法案の前提である情報公開制度は未熟であり、その上に国民の基本的人権を奪う、戦争のできる要塞を築こうとしているようなものです。

 七、特定秘密の定義と範囲が極めて曖昧であり、「知る権利は十分尊重し、報道、取材の自由への配慮をする」など、極めて抽象的な言葉しか聞こえません。

 八、秘密をチェックする第三者機関を設けて、特秘法を発案した首相自身が関与すると聞いて仰天しました。「鶴の一声権」を持った者が、本人がつくった法案のチェックに関わるとは、一体どういう神経の持ち主か。改めて特秘法案の危険性を痛感します。

 九、タカとハトが同数で向かい合えば、必ずタカが勝ちます。
圧倒的多数のタカが構成した第二次安倍政権によって提出され、国会の審議にかけられている特秘保護法案は、歴代の短命内閣、東日本大震災、これに伴う福島第一原発の事故、そして自民党内人気先順位者が相次いで総裁を辞退した潮流に便乗した危険法案です。
集団的自衛権のブレーキである内閣法制局長官の首を勝手にすげ替え、憲法96条から9条に迫り、国家安全保障基本法を成立させて、9条の上位に坐ろうとしている狡猾な権力の運営がありありと見えます。
副首相が、ナチに見習えと言ったように、特秘法案は、ヒトラーが、比較的よくできたワイマール憲法を打倒する全権委任法(内閣をオールマイティにする)を提出して、憲法を無視、また職業公務員再建法を発して、都合の悪い人間(ユダヤ人)を追放した手口にコピーのように似ています。

 十、第一次政権を無責任丸投げして、時の潮流に便乗、復帰した第二次政権が、なぜ民主主義の根幹を揺すぶるような反対法案の成立を急ぐのでしょうか。
最も悪い時期に、最も不適切な為政者が、一時的な経済の回復を踏まえて、最も危険な法案を提出し、タカ派国会の審議にかけようとしています。
この法案のきっかけとなった国家安全保障基本法のさらに源となった尖閣問題についても、彼我(日中)同じテーブルについて話し合おうともしません。
戦争可能な要塞を構える前に、基本的人権を守り、戦争の誘発を防ぐシステムをつくることが先決です。

埼玉新聞(2013年11月26日)に大意掲載

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