第四歌集「愛と死の歌」 – 第八回

133、わたくしの小袖のたもとくゆらすわ飛騨高山の夕暮れの風
134、あなたとの口づけの日を忘れない秋の野の草 風に揺れてる
135、がんであることがさびしくやりきれぬ君はそばにいてくれるのに
136、さびしくて涙流してマニキュアをぬりますあなたのことを想って
137、死ぬことがこんなにこんなに鮮やかに赤いもみじを浮きあがらせる
138、水中花かれることなく捨てられる生きることよりつらい運命
139、恋人の車イス押す男性の髪に木洩れ日揺れていました
140、木瓜(ぼけ)咲けばその名を教えてくれた日の祖母おもわれる春の日差しに
141、泣きたいの恋しているから泣きたいのあなたがいるから泣いていたいの
142、花びらにうずまるようにモルヒネにうずまってゆく私の痛み
143、桜のような恋でした淡く儚く切なくて桜のような恋でした
144、朝焼けよこの紫のヒヤシンスあと少しだけ咲かせてほしい
145、冬の陽は長いまつ毛のように差す優しい雪の香り残して
146、元旦に今年も愛する人たちと過ごせるように想いを託す
147、うつむいて何を想うの木瓜(ぼけ)の花わたしに秘密を教えてくれるの?
148、夕暮れの真冬の空が迫りくるお前は死ぬぞと今迫りくる
149、大嫌い嫌いよ嫌い君なんか背に抱きつき泣く私です
150、タクシーの後部座席でひざまくら母の手ぬくき一月の空

2005年1月27日

魂の切影写真集

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従軍看護婦のために辞世の短歌未発表作品