レッドライト

【著者解説 2002/9/27】

無数の人生が漂流する大都会は、人間の海である。大都会、特に東京には全国、世界からあらゆる人間が集まって来る。人口100万を超える大都市でも、地方都市はおおむね同一地方(コミュニティ)の人間によって構成される。見知らぬ顔であっても、氏・育ちの推測がつき、文化や言葉や体臭が同じである。

だが、東京はそれぞれ別の宇宙から来た異星人の寄り集まりと言ってもよい。それだけに出会いに神秘性がある。東京以外の日本の大都市、例えば大阪や北九州などでも、その出会いに、特に男と女の出会いにそのような神秘性は薄い。ラッシュアワーの駅や、街角の雑踏の中でも、知っている人はほとんどなく、人はそれぞれに孤独である。東京の夜を彩るイルミネーションはどんなにきらびやかでも、そこに住む、あるいはいる人たちの孤独感を癒すことはできない。そんな都会にいると、ふとすれちがった人間と人生を交換したいというおもいに駆られることがある。その人がどんな不治の病に寿命を刻まれ、どのような不幸を背負っているかわからない。だが、自分の人生に疲れたり飽きたりしたとき、ふと、まったく未知の人生と交換したくなるのである。地方都市ではそのような気持ちにはならない。

道路を埋める無数の車のテールランプは、それぞれの人生が凝縮しているように見える。それは大都会の未知がいざなう誘惑であると同時に、危険信号である。危険を承知で、人は東京に集まって来る。『レッドライト』の構想は、東京の人間の海を遊弋(ゆうよく)する無数のテールランプから生まれた。

実業之日本社
2001.3
*実業之日本社
2003.5
文春文庫
2006.11

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。


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