鍵のかかる棺(上下)

【著者解説 2002/8/20】

ホテルには国籍、人種、職業、宗教、性別、年齢、身分を問わず、あらゆる人間が集まる。デパートは買い物、駅は旅行、病院は治療、警察は犯罪関係と、集まる人々の目的が特定しているが、ホテルに来る人間の目的は多種多様である。ホテルに集まる客は、警察や放送局と異なって、おおむね無防備である。その意味で、ホテルは毎日、人間万博が開かれている。

ホテルマンは24時間を通して、これらの客を接遇する。ホテルマンの視角(アングル)は低い視座から客を見上げる仰角である。化粧を落とし、旅装を解いた人間の素顔や裸身がよく見える。事実、客の目にはホテルマンはサービスの部品に映るらしく、無警戒となる。人間を観察するのに、こんな素晴らしい舞台はない。しかも客席からではなく、黒衣として舞台の上から眺められる。

だが、サービス部品、黒衣に徹して10年も勤めていると、鬱屈(うっくつ)がメタンガスのように心身に内向してくる。これを吐き出したものが、この作品や『銀の虚城』に実を結んだ。

新潮社 上
1975.4
新潮社 下
1975.4
新潮文庫 上
1977.5
新潮文庫
1977.5
角川文庫
1980.7
角川文庫
1980.7
廣済堂文庫
1996.8
廣済堂文庫
1996.8
徳間文庫
2001.3
徳間文庫
2001.3

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。


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