致死海流

【著者解説 2003/3/17】

「時そば」という古典落語がある。そばを食った客が、夜泣きそば屋に代金を支払うのに、「こまかくって悪イな」と手を出させ、「ひい、ふう、みい・・・なな、やあ、いまなんどきだい」「ヘイ、ここのつです」「十(とお)、十一、十二・・・あばよ」と九文目分をかすめるという箇所がある。この落語から、この作品のメイントリックのヒントを得た。

密室はアリバイ崩しと共に、本格推理を支えるメイントリックである。機械的なトリックのほとんどすべてが考案され、密室は心理的なトリックの時代に入った。とおもいきや、ふたたび島田荘司氏や、綾辻行人氏によって大がかりな機械的なトリックが次々に考案された。密室トリックは本格ミステリー作家の見果てぬ夢であるようである。

私自身にもこの作品以外に、『高層の死角』、『東京空港殺人事件』、『黒魔術の女』、『終着駅』、『密閉山脈』、『密閉城下』、『新幹線殺人事件』、『ガラスの密室』などがある。不可能興味満点であるがゆえに、人工性によってリアリティが圧迫を受けるが、この推理と小説の矛盾する要素をどのように近づけるか、ミステリー作家の永遠の課題である。

*光文社
1978.6
新潮文庫
1979.11
*青樹社
1995.5
光文社文庫
1996.8
日文文庫
2000.5
徳間文庫
2003.10
実業之日本社
2008.9

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。


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