ホームアウェイ

都心から離れた郊外で、念願のマイホームを手に入れた鶴川一家。初めは豊かな自然に囲まれ満足していたが、すぐに何かがおかしいことに気づく。ごみの収集がこない。テレビも映らない。バスも通っていない。しかも、住民は何故か老人ばかり。この完全な陸の孤島で、一家は恐怖の陥穽に嵌りこんでいく―。現代の病、人間の闇を描破したサスペンス・ホラー。

【著者解説 2003/3/10】

大都市の乱開発によって、都心部の地価が高騰し、サラリーマンのマイホームは職場からはるかな郊外へと遠ざかっていく。いまや通勤片道1時間は常識であり、往復6時間も費やして遠距離から通勤する人もいる。6時間と言えば、1日の4分の1を通勤に費やしている勘定になる。

勤務時間も民間企業では9時から5時まで、8時間きっちりというわけにはいかない。当然、自由時間が圧迫され、平均睡眠時間3~4時間という非人間的なライフパターンが通常となる。すし詰めの通勤車内では読書どころか、ようやくありついた席では、ひたすら睡眠不足の回復に努めなければならない。労働者にとって、通勤は人生の損失(ロス)であり、なんの利益もない。

私自身、サラリーマン時代、遠距離通勤による〃痛勤〃を経験した。そのころの経験がこの作品を生んだのであるから、私にとってはあながち人生の損失ではな かった。だが、二度とあの痛勤をしたくないために、私はせっせと原稿用紙に向かい合っていると言えよう。

講談社文庫
1996.1

角川ホラー文庫
2006.7

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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