雪煙

国際刑事警察機構出向からもどった警察庁の高木史郎は、オーストリアの高峰グロスグロックナーで出会った不思議な魅力を持つ女・池上陽子と郷里の佐賀で偶然再会し、恋に落ちた。二人には、かつて将来を誓った恋人を失うという共通の過去が…。高木が、暴力団の国際犯罪を捜査中、重要参考人の風鈴会組長・清瀬の死体が丹沢で発見された。なんとその現場には、高木が元恋人・香保に贈った腕時計が残されていた!さらに、清瀬の身辺から浮かび上がる陽子の名!謎の女・陽子の正体は?香保の過去の事件に隠された真実とは?雄大な日欧両アルプスを背景に、二人の女の愛をめぐる悲劇を描いた森村恋愛ミステリーの白眉。

【著者解説 2003/3/10】

オーストリア・アルプスを訪れたとき、その鋭角的な山容に魅(み)せられた。スイス・アルプスの陰に隠れて、日本ではあまり知られていないが、その山容の秀麗さはスイス・アルプスを凌ぐ。最高峰グロスグロックナーは標高3798メートルで、富士山より少し高い。狭いオーストリア全土に3000メートル以上の高峰が100座以上あるそうである。その稜線を伝うアルペンハインウェイの景観は圧倒的であった。その 山容も日本アルプスに相似しており、親しみやすい。盛夏でも時折吹雪が襲い、雪煙が稜線から舞い上がる。あまりにも完成された山容は、意図された人工の布置すら感じさせる。自然美の極致は人工美の極致にも通ずることを、私はそのとき知った。

山岳ミステリーはミステリーの一ジャンルとして確立されているが、おおむね山岳を舞台にしている。オーストリア・アルプスに舞い上がる雪煙を眺めながら、山岳と都会を対置したこの作品の構想が浮かんだ。

*光文社
1996.12

光文社文庫
2001.5

講談社文庫
2008.2

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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