分水嶺

化学会社社員の大西と医師の秋田は学生時代に山で命の危険を分かち合った山仲間だが、秋田の勤める診療所に大西の会社の技術者が奇妙な症状を呈して送りこまれてきた。不審を抱いた秋田は、大西が会社で恐るべきガス兵器の開発に極秘裡に携わっていることを知る。企業のエゴに自らを懸けている親友を諌めようと、秋田は大西を追うが…。山男の友情を通して人間の尊厳を熱く描く社会派推理小説。

【著者解説 2002/8/27】

『大都会』、『幻の墓』、『不良社員群』と相次いで長編小説を青樹社から出版して、本はまったく売れないまでも、那須さんからのこの調子で書けと励まされ、この作品を書いた。ところが、ある先輩作家から酷評されて、私は一時、自信を失った。だが、その後、角川春樹氏と知り合い、氏が不遇時代、本作を含めて、『大都会』以下、『虚無の道標』まで、青樹社から出版した作品を愛読していた事実を知って、小説の評価や読み方も読者によって天地ほどに分かれることを知った。

小説は嗜好品に似ていて、読者の好みに合わなければそれまでである。同じ読者でも、読書時の年齢、生活環境、身体の状況、季節、時間帯、天候等によっても作品の印象は異なってくる。すべての読者から満点を取ることは不可能である。青樹社から出版した初期の作品が角川氏の共感を得たのは、氏の不遇時代と作者の環境が似ていたからかもしれない。

那須編集長に拾われる前は、これらの作品の原稿は嫁入り先も決まらず、私のデスクの上に虚しく積まれていた。もしこの原稿が日の目を見る前に、作者が事故か病気で死んでしまったら、きっと夜間、青い光を発したにちがいない。私はそれを怨稿(えんこう)と名づけた、たとえ出版されても、不遇の作品はすべて怨稿である。

青樹社
1968.9

青樹社
(蒼い高峰群)
1971.6

角川文庫
1974.8

*祥伝社
1976.8

廣済堂文庫
1992.12

*青樹社
1996.6

ケイブンシャ文庫
1999.6

中公文庫
2003.4

ワンツーマガジン社
2006.11

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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