通勤快速殺人事件

〈通勤快速殺人事件/魔性ホテル/団地殺人事件/愛社精神殺人事件/醜い高峰〉

【著者解説 2002/8/30】

サラリーマン時代、バス、私鉄、国電(当時)を乗り換えて、職場まで片道1時間半を費やして通勤した。職場に着いたときはへとへとになって戦力にならない。通勤時間はサラリーマンにとって何の意味もない出血である。通勤は乗り物に乗ったり歩いたりしている時間だけではない。家を出る前に食事をしたりしなかったり、またそれ相応の身支度をしなければならない。職住接近や職住同一とちがって、朝起きて顔を洗っただけで仕事ができるというものではない。職場へ出るためにはそれなりの準備が必要である。このために費やす時間は準通勤時間と言えよう。

朝のラッシュ時、特に月曜日の朝などは、幸福な顔をしている人間はめったに見かけない。席にありついた者は眠りこけ、吊り革にぶら下がっている人も、立ったまま少しでも睡眠不足を補おうとしている。こんな”痛勤”を定年まで大過なく勤め上げれば、三十余年から40年もつづけるのである。幸いにして、私は10年弱にして、この通勤地獄から脱出したが、この間、自らもその1人として通勤族の生態をつぶさに見た。

作家デビュー後、「週刊サンケイ」から初の連載依頼がきたとき、連載という発表形式で私に果たしてできるかどうか、まったくわからなかった。行きづまって、なにげなく職場に通いなれた電車に乗ったとき、サラリーマン時代の”痛勤”をおもいだした。サラリーマンにとって通勤は人生のロスであるが、また人生の重要な部分であることも事実である。この痛みに耐えても、職場に通いつづけなければならないサラリーマンの人生を切り取ってみたいとおもった。そうでもしなければ、自分が失った十年弱の通勤の帳尻が合わない。

ともかく連作シリーズとして書き始めた。このとき編集部に送られてきていた安岡亘氏の挿絵見本を見せられて、氏とのコンビが始まった。

サンケイ新聞社
出版局
1971.8

角川文庫
1975.5

*祥伝社
1977.9

文春文庫
1993.12

ハルキ文庫
1998.12

ワンツーマガジン社
2004.5

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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