〈凶原虫/兇家/溯死水系/雪の螢/連鎖寄生眷属/殺意を抽く凶虫/神風の殉愛〉
【著者解説 2002/8/27】
私は少年時代、無数の生き物を殺した。私は友達と一緒にスポーツをしたり、追いかけっこをしたりするのは苦手であった。だからといって、室内でゲームやカードに興ずるのも好きではなかった。ルールをおぼえるのが面倒くさいのである。
友達のグループから一人離れて、草原や空き地にうずくまり、蟻の行列を追ったり、蟻地獄を掘ったり、昆虫採集をしたりするのが好きな暗い少年であった。ずいぶん残酷な遊びもした。蝶々や蜻蛉(とんぼ)の羽を切って蟻の行列に置いたり、蛙の口にストローを突っ込んで息を吹き込み、パンクさせたり、蛇をブツ切りにしたり、罠にかかった鼠を檻に閉じ込めたまま川に沈めて、何分で死ぬか実験したりしていた。生き物相手の遊びが残酷性を帯びると、抜群に面白くなった。友達と一緒の遊びや、室内ゲームがばかのようにおもえた。もし「生類憐みの令」が生きていたら、いくつ命があっても足りなかったであろう。
歳月が経過するに従い、少年期に殺した草原の虫や小動物が私のトラウマとなってきた。自分でもなぜあんな残酷な遊びをしたのかわからない。きっと自分の心の奥にそのような残酷性が潜んでいたのであろう。後年、小説を書くようになってから、昆虫や小動物を作品に織り込むようになったのも、私の残酷な遊びの犠牲になった彼らに対する贖罪と、もし彼らに魂があれば、その鎮魂を願ってである。
*光文社 1977.6 |
角川文庫 1981.6 |
中公文庫 1997.9 |
廣済堂文庫 2002.9 |