【著者解説 2003/4/8】
自然界には一見、結びつかないような二者の共生関係がある。例えば桑と蚕、イソギンチャクとヤドカリ、ワニとワニ千鳥のように、両者が利益を受け合って生きている。一方が利益を受け、一方が害を受ける関係は寄生と言う。蝶の女王、岐阜蝶が寒葵を食草として育つことを知って、この作品の構想が生まれた。共生、寄生いずれにしても、この両者は切っても切れない関係にある。この関係が完全犯罪を崩壊に導く。
少年時代、満開の桜と共に、その美しい容姿を表わす岐阜蝶に魅せられた私は、補虫網を持って追いかけている間に、彼女らが命の糧としている寒葵の存在を知った。寒葵のあるところ、必ず岐阜蝶がいると見当をつけて探したが、実際に寒葵を食べるのは美しい岐阜蝶ではなく、その醜い幼虫であった。幻滅すると同時に、この物語の卵が着床したのであるから、やはり一種の共生関係と言えよう。
講談社 1978.9 |
*講談社 1980.6 |
講談社文庫 1981.6 |
角川文庫 1987.1 |
ケイブンシャ文庫 1994.3 |
青樹社文庫 1998.2 |
廣済堂文庫 2001.2 |
*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。