森村誠一短編推理選集10

〈神風の純愛/完全犯罪の座標/盗めなかった“切り札”/凶原虫/終身不能囚/団地殺人事件/連鎖寄生眷属/死導標/醜い高峰/断罪喫茶店/殺意を抽く凶虫/喪われた夕日/無限暗界〉

【著者解説 2002/8/20】

『神風の殉愛』
私には戦場体験はないが、1945年(昭和20年)8月15日未明、日本最後の空襲において我が家が被災しただけに、戦争は私のトラウマとなっている。『青春の源流』、『ミッドウェイ』、『エンドレスピーク』など、一連の戦争をテーマにした作品は、私のトラウマの産物である。戦争は二度とごめんであるが、戦争において、よくも悪くも人間性が最も強く顕(あら)われるようである。

題名は忘れたが、北欧の映画で、戦況極めて厳しい折、詩人を護送するために部隊長は一個小隊を割く。詩人は恐縮して一兵でもほしい折から、戦力にならない自分のために小隊を割かないでほしいと訴えたところ、部隊長は、「戦争はいつまでもつづきません。あなたは平和が回復したとき必要とされる方です。本来なら一個大隊を割きたいところですが、一個小隊しか割けないことをお許しください。」と詫びた。これは実話に基づいているそうだ。

日本の戦時中、「美術品の疎開のため割く列車があるなら、軍馬や犬を運んだ方がましだ」とうそぶいた日本軍部と雲泥のちがいである。しかし、動員学徒の中には国のためには死ねるが、こんなやつら(軍隊)のためには死ねぬと、最期まで死を拒否して平和のために戦った若者たちも少なくない。彼らは無意味な戦争のために春秋に富む無限の可能性を摘み取られてしまった。幸い、我が家が被災しただけですんだ私は、その若者たちの無念を少しでも後世に伝えたいと願った。その嚆矢が一連の反戦小説のさきがけとなった『神風の殉愛』である。

講談社
1978.11
講談社
1978.11

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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