【著者解説 2003/3/6】
かつて町の中を流れていた流れは、暗渠の底に閉じ込められて公園道路となった。道路に沿って桜や花水木の並木がつづき、花季には散歩者の目を楽しませる。以前そこに小さな流れがあって、フナやドジョウやオタマジャクシ、時にはザリガニなどの栖(すみか)であったことを知る者はほとんどいない。都会を流れる小川の住人たちは、いまどうしているのであろうか。もしいまも彼らが暗渠の底に生息しているとしたら、深海魚のように目を失ってしまったであろうか。
都立大学から奥沢の方へつづく呑川の暗渠や、幡ヶ谷から笹塚方面へ伝う旧玉川上水道の暗渠に沿う公園道路を歩くとき、いつも暗渠の底に生息する目を失った 住人たちを想像する。おもえば大都会も人工の極致に圧迫された巨大な暗渠ではあるまいか。暗渠の底を連想して、この作品の構想が生まれた。
弁護士、検事、新聞記者、医者、作家、教師などが探偵役になることは多いが、この作品には公認会計士が探偵役として登場するのも、私の作品の中では初めての試みである。
文藝春秋 1982.6 |
文春文庫 1985.2 |
角川文庫 1994.12 |
ケイブンシャ文庫 2002.2 |
中公文庫 2008.3 |
*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。