【著者解説 2002/8/16】
すべて私の作品であっても、運、不運というものがある。時代のニーズ、時流の変遷、出版のタイミング、読者の好み等によって、ブレイクする作品もあれば、不発に終わったり、忘れられたりする作品もある。
戦争の痛みと犠牲を踏まえてつくられた日本国憲法は、敗戦後の焦土と混乱のうちに茫然自失していた日本人にあたえられた新生日本の指針であり、前途に見いだした一抹の光明であった。特に戦争を放棄した第9条は、新憲法の白眉であった。
それまで国家と国民の独立と安全を最終的に軍に託していた世界諸国家の中で、戦力のバランスの上に立つ平和の危険性を説いて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、世界で初めて非武装を宣言した日本であったが、戦後50年世界の平和の理念を示した憲法はほとんど空洞化されてしまった。
国民の過半数が憲法改定に賛成に回ったいま、この作品は私は全著作の中で最も不遇な位置にいる。だが、不遇であればあるほど、それがこの作品の生命であると信じている。
現代史出版会 1984.3 |
徳間文庫 1986.4 |
*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。