銀河鉄道殺人事件

【著者解説 2003/3/6】

学生時代の一時期、私は日本地図を広げて目をつむり、ピンで指した地点を目的地に旅行をしたことがあった。海や、アクセスのとうてい不可能な高山、僻地の 場合は二度、三度刺して、目的地を決めた。このようにしてたどり着いた地点は、なんの変哲もない村外れであったり、荒野の真中であったりした。だが、ガイドブックの観光スポットを効率的にリンクして、忙しく駆け回る旅には決してない未知への期待と発見があった。気が向けば、往復の途次、近くにあった山へ 登ったり、観光スポットへ立ち寄ったりした。予定なし。旅費は乏しい。こんな行き当たりばったりの旅行が、この作品を生んだのであるから、目的のない旅行の大きな成果と言えよう。

自分の書架にこの作品の背文字を見出すとき、いつも、またあんな旅行をしたいなという郷愁のような懐かしさをおぼえる。時間の奴隷のようになってしまった私に対する警告であるかもしれない。

*講談社
1985.8
講談社文庫
1988.7
祥伝社
(ノン・ポシェット)
1994.6
ハルキ文庫
1998.5
有楽出版社
2005.1

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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