士魂の音色

〈飯怨/計勅/恩走/一針の稗史/魂なき暗殺者/魔剣/膿殺/剣菓/土の魂〉
*中公文庫版は「剣菓」「土の魂」の代わりに「吉良上野介御用足」

【著者解説 2002/8/20】

『土の魂』
出かけるときはなんとなく億劫であったのが、帰って来るときは収穫が大きいという旅がある。旅は非日常であるがゆえに旅であり、通勤や業務上の出張は旅とは言わない。非日常への脱出は億劫なものである。

だが、非日常の風景の中で、未知との遭遇が多い。名寄での『笹の墓標』との出会いもそうであったが、飛騨高山へ旅した際、高山陣屋に寄った。一巡 して立ち去ろうとしたとき、一団のグループを引き連れてやって来た案内者の名調子につられて、もう一度館内をめぐった。そこでわずか17歳で数万の農民一 揆を率いて将軍にまで直訴し、我が身を犠牲にして飛騨三郡、二百八十三か村を救った善九郎の話を聞いた。善九郎の遺言は、彼の処刑時、その首を討った首切 り役人が聞き取って代書した。その首切り役人の名前は留められていない。無名の首切り役人が聞き取った善九郎の遺言、『土の魂』はそのときすでに私の脳裡にでき上がった。

新潮社
1991.7

*角川書店
(魔剣)
1994.1

新潮文庫
1994.9

中公文庫
2009.6

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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