人間の剣 江戸編

不思議な力を秘めた名刀、無銘剣を案内役に壮大に描く「森村通史」の完結編。260年にわたり平和が保たれた江戸期。歴代将軍から遊女まで、多彩な人間模様を活写する歴史長編。

作品説明(大滝浩太郎)

無銘剣―― みすぼらしいこしらえながら、すさまじき業物、持ち主の心身に活力を与え、行くべき道を示す謎の古刀。この剣の流転を軸に、桶狭間から御巣鷹山まで400年にわたってつづる長大な叙事詩が「人間の剣」シリーズ。『幕末維新編』『昭和動乱編』と続き、『戦国編』のあとをうけた本書で歴史の環(わ)がつながった。

 『人間の剣 江戸編』では徳川幕府260年の盛衰が、25の短編連作で語られる。由比正雪の変、伊達騒動、忠臣蔵、絵島生島、大塩平八郎の乱など、主要なエピソードが網羅されている。どれもが長編の素材になりうる事件であり、現にすでに長編化したものもあるだけに、短編としては急ぎ足の作も目につくが、物語を楽しみながら江戸の流れを概観することができる。自ら「森村通史」と呼ぶゆえんだろう。

 だが、著者の狙いは単なる通史を描くことではない。『戦国編』のあとがきによれば、「人間を再生し、人間のドラマを描くのが目的だ」という。まして舞台となったのは「日本歴史の中で最も人間くさい」江戸期である。人のけがれと崇高さを等しく見つめ、生を肯定的にとらえようとする著者ならではの視点が、隅々にまで行きわたっている。凄惨で過酷な物語の連続にかかわらず、読後感に陰うつさが残らないのは、どこかまっすぐな、人間への飽くなき興味が、長大なシリーズの原動力になっているからだろう。

中央公論新社
2001.1

*中央公論新社
2003.2

中公文庫
(天草の死戦)
2004.2

中公文庫
(大奥情炎)
2004.3

中公文庫
(天下の落胤)
2004.4

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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