夜明けのコーヒーを君と一緒に

「福原市は鏑木一真の地元ではありませんか」―次期総裁候補・鏑木の金権構造を解き明かす記事がもとで毎読新聞社に辞表を提出せざるを得なくなった藤中に、上司が紹介してくれた就職口は、鏑木の地元・福原市にある地方新聞・福原新報だった。市庁、警察、マスコミ、金融機関、企業、ほとんどすべてに鏑木の息がかかった福原にあって、唯一、ジャーナリストとしての気骨を示す武富社長のもと、藤中の新たなる戦いが今はじまった!武富の美しい娘・淳子とともに正義の実現した福原で本当の美味しい夜明けのコーヒーを飲むために…。森村ミステリーの真骨頂。

【著者解説 2003/3/17】

一流会社に勤めているエリートは、まずは自分の一生が約束されているとおもい込みやすい。だが、途中、経営者の逆鱗に触れて、左遷、更迭されることも珍しくない。組織には必ず主流と反主流があり、盛者必衰のことわりにより驕る者も久しくない。組織の中の勢力関係は変わりやすく、絶対の権力を誇った者も、一 朝にして失脚することがある。大手新聞社の社主の逆鱗に触れた一介の新聞記者が、政治権力に対してほとんど勝算のない孤独な戦端を開く。個人と権力、あるいは組織との絶望的な戦いは、私の好んで描くところである。

これまで弱者対強者の戦いには、フィクションの中でしか勝ち目はなかったが、インターネットを手にした個人は、いまや世界に対して発信できるようになり、 隆車に歯向かう蟷螂にも勝算が生まれた。その分、小説の舞台が狭められたわけである。携帯電話とインターネットはミステリーの天敵であるが、これをどのよ うにして克服するかが、この作品の重要な課題となった。『レッドライト』にも同様の課題が課せられた。

実業之日本社
2002.9

*実業之日本社
2004.9

ハルキ文庫
2007.5

中公文庫
2012.9

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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