人間の剣 戦国編

剣の長さは二尺四寸、元幅一寸、反りは七分、柄は鮫皮で包み、組糸は菱に巻いている。実戦本位で銘はない。食うか食われるかの戦国の世は、槍一筋の働きで一国を取れるジャパンドリームの時代であると同時に、力のない者は速やかに淘汰される酷烈な社会だった。信長覇道の端緒となった桶狭間の戦い、武田家滅亡の契機となった長篠の戦い、家康が豊臣家を滅ぼした大坂冬の陣・夏の陣―。史上名高い数々の戦役を舞台に、無銘剣の旅がつづく。

【著者解説 2004/8/11】

今川義元の君臨する駿府城下から発した一振りの無銘剣は、桶狭間の合戦を経て、昭和末の御巣鷹山まで、有名、無名の人物の手を転々としながら、歴史上の事 件を漂流する四百二十五年の旅をたどる。無銘剣が吸った夥しい血は、歴史の慟哭であり、歴史のうねりが奏でる無数の人間群像の壮大なシンフォニーである。 戦国、安土桃山、徳川、幕末、昭和と無銘剣を案内人にたどった長途の旅行は、森村通史でもある。

小説作家の描く歴史は、単に過去の亡霊の再生であってはならない。現代からのスポットライトを浴びせてこそ、過去は過去に留まらない活き活きとした人間ドラマとなってよみがえるのである。生きている人間の血の通った歴史ドラマこそ、私が描きたかった通史である。

読売新聞社
1999.1

*中央公論新社
2000.8

中公文庫
2003.12

中公文庫
2004.1

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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