破婚の条件

昌枝は自分でも説明がつかなった。相思相愛、理想の結婚を実現した7年後、突然、夫の慎治が嫌いになってしまった。嫌悪を抑えきれず、夫を殺すべく完全犯罪を企てるが、決行当日、夫はすでに殺害されていた。事件に注目した棟居刑事は、巧妙に仕組まれた犯罪を追及する。自由、多額の保険金、新しい恋人を一手にした昌枝が陥った人生の深い罠とは。愛憎と欲望に翻弄される人間たちの悲哀を描ききった、棟居シリーズの白眉。社会派ミステリの到達点。

【著者解説 2003/4/8】

結婚はもともと他人の男女が人生を共にしようとする契約である。他人間の契約であるから、取り消せば、また元の他人に還る。日本の裁判所は離婚に対して消極的であるので、離婚の条件にいろいろと難しい注文をつけている。法的な離婚は双方の合意による離婚届の提出によって成立する。

だが、離婚以前に愛が消えた2人は、すでに破婚している。破婚しても法律的には夫婦をつづけている男女には、どんな事情があるのであろうか。世の中で男と 女の間の約束ほど、当てにならないものはないという。だが、男と女の約束が歴史をつくっていく。この作品では、破婚した1組のカップルを追って、男と女の関係を探ってみた。

死ぬまで添い遂げた夫婦は幸福であろうが、同時に退屈のようでもある。夫婦の間に他人性が薄れ、異性感が希薄になると、男女の葛藤もなくなってくる。夫婦の完成が男女の喪失であるなら、人はただ繁殖のためにだけ結婚するのか。しかし、繁殖しない夫婦もいるので、この定義は当てはまらない。神や仏の前で永遠の愛を誓っても、結婚後、その愛に限界があることを2人はおもい知らされる。彼らが愛とおもったものは異性愛にすぎなかったことを知ったとき、破婚の条件はすでに整ったのである。

幻冬舎
1999.1

*幻冬舎
2001.3

幻冬舎文庫
2002.4

角川文庫
2012.5

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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