魔性の群像

ようやく手に入れた念願の一戸建て住宅。牧原藤子は新居に満足していた。しかし、おもわぬ不幸が近所に潜んでいた。親切の隠れ蓑を着て近づいてきた向かい家の細君は、牧原家のゴミ袋を覗くほどの詮索好き。右隣からは毎夜、プロレスのテレビ中継が大音響で轟いてくる。左隣からは猫除けオキシフルの猛烈な異臭が漂い、裏家からは庭に舞い散る落ち葉への抗議が。終の栖として入居した家が“隣魔”に囲まれていたのだ。このままではなんのためのマイホームなのかわからない。目には目を。藤子は反撃にでるが…日常に潜む殺人動機の芽をテーマに人間社会の病巣を鋭く描く恐怖ミステリー。

〈隣魔/食魔/ノロ魔/電話魔/猫魔/社魔/痴魔/煙魔/車魔/音魔〉

【著者解説 2002/9/5】

中世は、人間はあやかしと共生していた。だが、それらのあやかしは昔にはどんなにおどろおどろしく、異界にまたがるような非現実性があっても、どこかに人間味があった。今日の魔性は異界にまたがらず、紛れもなくこの世界に所属し、この社会に生きている人間から発生したものでありながら、非人間的な精神の奇形が多い。物質文明の飛躍的な発達に置き残された精神が奇形化したと言おうか。現代に生きている間に心が歪んでしまった人間の群像を追いつづけている間に、この作品と『魔痕』にまとまった。現代の魔性の群像を追いつづける作者自身も、魔性に取り憑かれた一人かもしれない。

徳間書店
1999.2

トクマ・ノベルズ
2005.11

徳間文庫
2008.6

祥伝社文庫
2013.3

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

著書

前の記事

破婚の条件
著書

次の記事

砂漠の喫茶店