残酷な視界

〈空白の凶相/雪の絶唱/赤い蜂は帰った/死を運ぶ天敵/異常の太陽/殺意開発公社/殺意中毒症/魔少年/残酷な視界〉

【著者解説 2003/4/15】

未決勾留中の角川春樹氏は自由を拘束された刑務所の窓からの眺めを、「そこにあるすすきが遠し檻の中」という1句に詠んだ。春樹句集の代表作と言える名句である。

だが、そのような才能のない孤独なハイミスOLにとって、高層マンションにある自分の部屋の窓から見渡す、一見、平和で幸せそうな家々の眺めは残酷な視界であった。夜ともなると、ただ1人、孤絶した部屋の窓から明るく幸せそうな家の群の灯火が瞬いている。大晦日の「紅白歌合戦」は独り暮らしの者には残酷な番組である。彼らは大晦日、1人で「紅白歌合戦」を見ることができなくて、だれかの部屋に寄り集まって一緒に見る。だが、残酷な視界が広がる窓の主には、そのような友人もいない。都会にはそんな寂しい部屋に住む人々が大勢いるはずである。

あるハイミスOLから、自分の部屋の窓から見える風景が嫌いだと聞いたとき、私は窓(自室のものとは限らない)からの風景に、彼女の窓の風景を想像(オーバーラップ)するようになった。大都会では、隣りの建物の壁しか見えないような窓もあるが、窓の外の風景を想像することはできる。私が眺める窓の風景には、OLの残酷な視界が原景としていつもオーバーラップしている。この作品は、そのオーバーラップから浮かび上がった。

講談社
1974.6
*講談社
1975.9
講談社
2002.11

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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