笹の墓標

第2次大戦中に起こった、北海道のダム工事における強制労働での犠牲者の遺骨発掘作業で、沼公一郎は腐乱死体を発見した。遺体は、神沼の恋人である葦原奈美の同僚で、上月良彦だった。奈美は、夢を抱いて東京に行き変死していたが、上月も、故郷・唐津に恋人の中路香織を残して上京していた。

やがて捜査線上に、北海道の政財界の大物が浮上する。事件の真相に迫るに連れて、強制労働の歴史の因縁が明らかになるとともに、神沼と中路への関わりも深まっていく。過去の宿怨と現代の殺人事件が時間と空間を超えて交錯する、社会派推理の傑作!

【著者解説 2002/8/16】

旅先で意外なテーマや作品のモデルに出会ったり、拾ったりすることは多い。同郷の北海道大学・神沼公三郎教授に招ばれて名奇へ行ったとき、同大学演習林のある朱鞠内(しゅまりない)湖畔に戦中・戦前の強制連行された朝鮮人労働者の「笹の墓標展示館」があると聞いて、見学に行った。(写真館参照)そこで山中に葬られた強制労働者遺体発掘運動を進めている殿平善彦氏と出会い、強制連行労働の実態を知り、この作品を書いた。名奇へ行かなければ、この作品は生まれなかった。歴史の暗黒を発掘するのは作家の義務であると心得る私にとって、貴重な出会いであった。

*光文社
2000.5

光文社文庫
2003.6

小学館文庫
2009.2

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

著書

前の記事

棟居刑事の悪の器
著書

次の記事

夢魔