碧の十字架

深夜のコンビニ強盗殺人事件と、同じ夜に起きた轢き逃げ事件。銀行マンの南雲は轢き逃げに遭った若い女性を助けるが、彼女は事故以前の記憶を喪っていた。女を自宅に引き取って、記憶の回復を待つ南雲。奇妙な同棲生活が始まるなか、働きに出た彼女に伸びる過去からの魔手。喪われた記憶には、殺人の過去が封印されているのか?轢き逃げ事件が呼び寄せた殺人の連鎖。

【著者解説 2003/3/6】

手を伸ばせば、指の先が染まりそうな青い空にくっきりと描かれる白い線、飛行機雲は、飛行機の轟音と大気汚染があっても、目には美しい眺めである。アメリカのスペースシャトルの空中分解の際にも、この飛行機雲が青空に描かれていた。不吉な運命の予兆であったが、一見する限り、普通の飛行機雲となんら変わりない。いつもなにげなく見過ごしていた飛行機雲が、あるとき十字に刻まれていた。超高空で2機の飛行機が交叉して描かれた十字架であった。この青空の十字架が、この作品のヒントをあたえてくれた。だが、NASAスペースシャトルの空中分解以後、飛行機雲を私は青空の美しい風物詩として単純に見上げられなくなった。

*角川書店
1992.11

角川文庫
1994.1

光文社
2002.12

中公文庫
2011.1

*は新書サイズ、()内は別題名、複数作品収録の場合ならびに長編選集は〈 〉に内容を示した。◇は再編集本など。

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