専守防衛覆す日米同盟(東京新聞2015年5月14日)

安倍晋三首相の暴走は、もはやとどまるところを知らない。日米両政府の防衛新指針(ガイドライン)は、要するに「商取引」である。安倍政権が最も脅威とする中国の尖閣諸島進出に、米軍の支援を買い取ろうとして、米国が最も警戒する中国の蠢動(しゅんどう)を抑えるために自衛隊の活動地(水)域を世界全域に拡大したのである。

もともと米国は、日本領有の岩だらけの小さな島などに関心はない。尖閣支援を餌に、自衛隊の軍事力を超安値で買い取ったようなものである。米国に圧倒的に有利な(商)取引を国会を素通りして、安部首相の独断で行い、自衛隊を売り渡したのである。つまり隣家との境界にある小さな石ころを守るために、累代の家訓を破り家族にも相談せず、先祖伝来の家屋敷を手放したようなものだ。

日米同盟は両国に公平なものではない。本来、米国の軍事力は全世界に及び、それに対して日本自衛隊は、憲法九条限界の法理の妥協と国民の認知による専守防衛を隊是としている。日米対等同盟は、あくまでも九条の妥協範囲である。これを、国民を軽視し、沖縄を置き去りにして、首相の独断で、同盟という名分のきわめて不公平な商取引によって手前勝手な契約を交わしたのである。

日米同盟新指針は、日本の安全よりも、威信低下や財政難に悩む米国にとって干天の慈雨のような取引である。我が国の存続と国民の命と人生にとって明白な被害者は、まず世界のどこの戦場にも派遣される自衛隊員とそのご家族ある。そして隊員の大量退職を補う国民徴兵となり、日本はいつか来た道を歩むことになる。

東京新聞(2015年5月14日「発言」欄)に掲載

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