連載紹介/連載予定

■連載紹介


「永遠の詩情」

2017年3月号より野性時代に連載

「永遠の詩情」連載にあたって

 半世紀以上にわたり小説を書き続ける森村誠一が新たに挑むのは、詩と小説の融合という試みです。背景には、詩と浅からぬ関係がありました。
 私の故郷は埼玉県の熊谷市であり、荒川に沿う堤防から、秩父の山脈から上信越の山々、日光の男体山まで一望のもとに見える。
 父が本が好きだったので、父の本を読み、詩人になりたいとおもった。中でも立原道造、外国では、ヘルマン・ヘッセに憧れた。
 特に荒川堤防から地変線につづく山脈を毎日のように眺めながら、いつの日か青い山脈の彼方にある未知の世界へ憧れて永遠の旅人となる自分を想像した。
 地平線を越えて水平線のかなたへ憧れるようになると、当時の貧乏学生には手も足も出ないが、海のみえない私の郷里では山恋一途であった。

夢はいつもかへってい行った 山の麓のさびしい村に水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかえった午(ひる)さがりの林道を(後略)

立原道造

この詩に影響されて次の詩が生まれた。

追憶というものをいつくしむ人は
かっての幸せの日々のみをえりわけて
時間に編まれたヴェールの中に
己の宝として柔らかく包みこむだろう(後略)

森村誠一

旅人は草を藉(し)いて
長い息をのみ込んだ
──瞳は遠く
かぎりもない山脈が
辛夷(こぶし)の花のやうに咲き簇(むらが)つてゐる
五月の空の
匂はしい邦(くに)の
幻想へと吸はれてゐた(後略)

富田砕花

片雲の風に誘はれて、漂白の思ひやまず(後略)

芭蕉

此処は雲の故郷
見果てぬ若者の夢の様に
限りなく生まれては
虚空に消える
あの流れる雲の――
(中略)
此処は旅人の心の故郷
若き日の心一途の讃仰を
山なみの青きかなたに寄せし
あの旅の心の――

森村誠一

永遠の詩情に憧れた私は次の詩を昭和五十年に創作した。

光は
一つの愛の約束の様に
柔らかく明るく山々をつつんでいた
五月の風に
花々の香が運ばれて
キラキラと降りそそぐ時
人々は都会の歯車の
生活を忘れて
空の青に
指を染めるばかりに
背伸びをした

森村誠一

 私はその暗いまでに青い空をインクにして、この永遠の詩情を、小説と一体にして表現してみようとおもった。
 この試みが、詩情に掛けがちの小説に、詩文一体となった新しい可能性を示すであろう。
 永遠の詩情が新たな文化の源となれば作者としてこの上ない喜びです。


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