第四歌集「愛と死の歌」 – 第五回

98、水面には涙の波紋ひろがって私の心みずうみになる
99、十月の蝶々どこへ行くのだろう冷たい風が空を凍らす
100、コスモスを揺らすそよ風わたくしのほおをかすめて黒髪ゆらす
101、君想い流したなみだ星になれこの木枯らしの十月の夜に
102、少しずつクシ欠けてゆく秋の暮れ私の命を見ているようです
103、結い上げたママのうなじの後れ毛を死んでも死んでも忘れないから
104、病室の天上カモメの染みあって私を海へと誘(いざな)ってゆく
105、一回に四分の一しか食べられぬ林檎むくは母わたしを許せ
106、魅せられたように見つめる紫の空の向こうに何があるのか
107、「おばあちゃん死んでないよね!」真夜中の外科病棟に響く子の声
108、人の死後祭りの後の静けさよ真夜中病棟ひと恋しくて
109、キーボード打つ指重し末期がん恋文さえも書けなくなるのか
110、秋空は母の想いを伝えてる私に「生きて!」とそう伝えてる
111、憎しみが凶器のように顔を出す幼い頃の傷うめられず

魂の切影写真集

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従軍看護婦のために辞世の短歌未発表作品


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