120、明け方に痛みで目覚めること多し君の面影こころに映る
121、モクセイの残り香のある明け方に白い蝶々はひっそりと逝く
122、添い寝する母は夜中にわたくしの氷枕を優しく替える
123、同じ年生まれの友はガンでなく私は末期ガンであるこの差を神にいかに問おうか
124、病室の外は木枯らし手をとってさすってくれる母のまなざし
125、野いちごが根を張るように次々に転移してゆくがん細胞あり
126、あの方と結婚式を挙げたいのもはや治る見込みもなくて
127、モクセイに風がタクトを振り上げて私の秋が散ってゆきます
128、余命はね延びるんだよという君の言葉信じて桜を待とう
129、さざんかの香り窓から忍び込む生きてるだけでいまは苦しい
130、お月見をして泣いたけどあれはもうやはり最後の日々だったのね
131、車椅子とおくを見ている少女いて本当は海に帰りたいのよ
132、こんな日は肌と肌身を寄せ合った体に痛みが走る前には
第四歌集「愛と死の歌」
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