2010年度 山村教室開講式 島田荘司先生ご講演 1

2010年4月10日@渋谷ネクサス

――山村正夫記念小説講座の、2010年度開講式を開始いたします。本日はスペシャルプログラムでお届けさせていただきます。それではまず、教室代表の山口十八良先生より、「開講のご挨拶」をお願いいたします。

山口代表 今日から始まりです。まず、森村先生、いつもありがとうございます。島田荘司先生、今日はよろしくお願いいたします。穴井さん、石坂さん、渡辺さん、いつもバックアップありがとうございます。こういうみなさまのバックアップを得て、ここにいるみなさまが、今年度何人ここからデビューするかということです。ぼくは森村先生の前で、「今年は三人デビューさせます」と誓いを立てましたので、三人出てくれないと、僕の身が一体どうなることかわかりません(笑)。

本日のアテンドは、光文社の穴井さんがなさってくださったのですが、小説の好きな人にとっては、今日は千載一遇のあり得ないことです。作家を目指す人たちにとっても、今日刺激を受けなかったら、もう渋谷には二度と足を踏み入れるな、というくらいのものです。同じ場にいて、同じ空気を吸えたことだけでも、とてもすごいことなのです。今日はいろんなことを吸収していってください。これから始まりますが、その前に、まず塾長の森村先生から、ひと言、お話いただきたいと思います。

森村先生 島田先生は、普通の作家とは違って、まず、人柄がとても誠実で、あたたかい方です。そして、日本において社会派ミステリーが全盛の時に、まさに本格の『占星術殺人事件』をもって推理小説の潮流を変えた方です。さらに、たくさんの新星を育てた方です。もちろん、そういう方は、江戸川乱歩さんとか、山村正夫さんとか、先人もいらっしゃいますが、島田先生はその流れを国際的な範囲に広げ、新人の育成に努めておられる方です。今日はたっぷりと、その謦咳に接して、そして島田荘司という作家を「Feel」してください。理論的に摂取するとともに、島田荘司という作家を感じ取っていただきたい。ではその前に、ご担当の穴井さん、ひと言お願いします。

穴井副編集長 光文社の穴井と申します。島田荘司先生の担当は1996年から足かけ十五年務めさせていただいております。森村、島田両先生の担当をやらせていただいていて、非常に恵まれた文芸編集者なのですが、山村教室に関わるようになって三年の私にとっても、今日は大変特別な日になりました。森村誠一VS島田荘司というのは、史上空前の黄金カードだと思います。島田先生は新しい才能の発掘とその育成に、一生懸命にやってくださる方ですので、森村誠一先生が三十年前に、誰よりも先に、『占星術殺人事件』の素晴らしさを発見して、絶賛の言葉を贈って島田先生を応援したように、ここにいるみなさまも、森村先生、島田先生に発見されるべき才能となるように、是非本年度、頑張ってください。今日の講義は「小説宝石」の五月二十二日売り六月号に掲載されますが、島田先生の、生の言葉を一言一句聞き漏らすことのないように、是非、お聞きください。

島田先生 どうもありがとうございます。島田荘司でございます。まずは立って一度ご挨拶させていただきます。山村正夫先生には、生前に一度、銀座でお会いしたことがございます。お酒の席だったので、深い話はしなかったのですが、その後、『本格ミステリー宣言』という評論集を出し、山村先生のお名前を出したのですが、そうしたらすぐにお葉書を下さって「名前を出してくれてありがとう」と仰ってくださいました。山村先生という方は、乱歩さんに見出され、文壇のトップにまで登り詰めたような方でいらっしゃって、私もそのように認識しておりましたので、「なんと謙虚な方だろう」と感銘した覚えがございます。

ですから、ここでお話させていただけるということは、私にとっても喜びですし、森村先生からお話をいただいたとき、さっそく引き受けさせていただきました。森村先生にも、デビュー当時、先ほど穴井さんがおっしゃった通り、大変お世話になりました。それから山口十八良さん、一緒に吉祥寺で飲んだことがありますね。かなり泥酔して(笑)、もう憶えてないかと思いますが、駅に戻る道々、ぼくはもう付き合いをやめようかと思うくらい無礼なことを言われたのですが、憶えてないでしょう(笑)。しかし彼は話術巧みな、作家になったら、天才的なユーモア作家となったのでは、と思えるような、大変な才の持ち主です。普段は十八良さんが講評をされていて、時々われわれ作家がゲストとしてやってくるという、そういう構造だと伺っております。

それで、今日は、どういうお話をしようかと思ったのですが、よく「創作の秘密について伺いたい」というようなことを言われるのですが、そういうことは特にありませんので、今日はミステリーというものの全体を俯瞰しまして、ミステリー、幻想小説、ホラーというのは何なのか、その中でも、本格のミステリーというものは何なのか、また、ミステリーの歴史についても大雑把にお話して、できることなら、それを頭に入れていただきたいと思っています。

ここにお集まりの方々は、ミステリーを書かれる方は1/3くらいなのでしょうか? 時代小説の方もおられ、文芸畑の方もいらっしゃると伺っております。私は本格ミステリーというのを、ミステリーフィールドの柱と考えておりますし、本格のミステリーを振興し、理解し、その作品を誘導する――どのような小説を本格と呼ぶのか、どういう条件を満たせば本格となるのか、という命題もありますが――こういうようなお話を、あちこちでしてまいりました。今日そのようなことも併せて、少しお話してみたいと思いますが、全体としては本格ミステリーに特化してお話するのはあまりしない方がよいのかもしれません。しかし、本格ミステリーが何故現れてきたのか、日本およびポー以降のミステリーの流れというのも、一応頭に入れておいていただくのが、創作において有効だと考えます。

そういうお話だけで終わってしまうかもしれません。創作の秘密はありませんが、どうしてもこれは訊きたいというようなことがあれば、後で質問コーナーを設けようと思います。私は何も隠すつもりはありませんので、私が持っている知識や認識は、問われればすべてお話いたします。まずは、ミステリーという小説ですが、これはどういう小説か、ということについては、まずみなさんの意見を訊いてみたいと思います。ミステリーについて、どういうイメージをお持ちでしょうか? では、前列のあなた、いかがでしょうか?

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