2010年度 山村教室開講式 島田荘司先生×森村誠一先生ご対談 1

2010年4月10日@渋谷ネクサス

――それでは後半を始めさせていただきます。後半は作家対談で、森村誠一先生と島田荘司先生のご対談です。進行は山口代表にお願いいたしします。

山口代表 山前譲さんがお立ち寄りくださいました。ひと言ふた言お願いいたします。

山前譲さん どうも山前です。二週間前はここで勝手なことをしゃべりました。開講式というのははじめてお邪魔させていただきましたが、さすがにすごい熱気ですね。わたしは着てくるものを間違えたかなと思いました(笑)。これは半袖のTシャツで大丈夫ですね。さすがに違いますね。今日は、このお二方と申しますか、両先生、ミステリー界でもこのお二人が揃うというのは滅多にないことですし、すごくビッグな企画だと思いますので、どうかみなさん、いろんなことを吸収してください。

山口代表
ありがとうございました。で、時間がもったいないので、わたくしが無駄な話をしていると、石が飛んできそうですので(笑)、じゃあ、森村先生の方にマイクをお渡しいたしますので、実りのあるお話をお願いいたします。

島田先生 何について、お話しましょうか?

山口代表
文学全般ではないでしょうか。文学の中で、ミステリーは芸術品の最たるものだと思うのです。すべてを積み上げていくという手法が。そして、ミステリーが学べれば、どんなジャンルへも入っていけると思いますので、ミステリーから入っていただいて、お二人の経験とか、諸々を語っていただければと思います。

森村先生 私は、みなさんとお話する機会も多くありますので、今日は島田先生の話を聞きたいと思います。みなさんも島田先生に質問がいっぱいあるかと思いますが、質問の要領が悪いから、私がみなさんの一番訊きたいようなことを、ピックアップして訊いていきたいと思います。

では……、特に今日のお話の中で感銘を受けたのは、本格ミステリーに対する情熱です。本格ミステリーというものは、ハマっていくものです。普通の文芸とはちょっと違う。中毒になるのですね。それほど面白いし、やりがいもある。島田さんはそういう本格ジャンキーの教祖のような方です。

私が特に、日頃からみなさんに申し上げていることは、「作家としての基礎体力をつけろ」ということですね。今日、みなさんも衝撃を受けたと思います。本格の作家は、これだけ基礎の知識があるのです。小説を書く以前の蓄積が、こうも深いものであるのかと、ショックを受けていると思います。

特に、こんにちの新人の方々は、感性だけで勝負するという人が多い。本人は蓄積があると思っていても、われわれの目からみると、たいしたことない。例えば、島田さんの話の中に、さきほどいろんな作品が出てきました。エラリィ・クイーン、ヴァン・ダイン、アガサ・クリスティ、コナン・ドイル、どれくらい読んでいるか? あまり読んでいないと思う。ミステリーを志す人でなくても、こういった名作や古典は読んでおく方がいいです。

読まなくても作家になれるかもしれませんが、読んでいる人の方が絶対に作家として長続きします。 感性だけで勝負する新人作家というのは、ひとときは羽ばたくことがあるかもしれませんが、消えやすい。例えば、今日、田山花袋が出てきました。太宰も出てきました。好きか嫌いかではなく、百名山のように、まず、読破しているかいないか、です。わたしたちの時代には、洗礼の書というものがありました。そういう洗礼の書というのは、本が嫌いな人でもだいたい読んでいたのです。

今日は島田さんと、こういう話をしようと思います。普段、クラブなどで会っても、互いにもっと柔らかい、日常の話をしています。作家同士が、互いの作品について語り合うということは、とても照れくさいものです。酒を飲みながら、こういう文芸の話はしませんね。今日はそういった意味でも、稀有なチャンスでありますので、まず島田さんに訊きたいのは、ここにいる人たちは、プロの作家になりたいと思っている人が圧倒的に多いです。趣味や余生の時間として書こうとしている人は少数派です。

洛陽の紙価を高めるようなベストセラーを出したいと思っている人たちが大部分です。そういう人たちが一番悩んでいるのは、果たして自分が作家になれるかなれないか、作家として才能があるのかないのか、非常に悩みが多いと思うのですよ。山村教室に通っていても、何ら得ることない、もう辞めようかなぁ、と悩んでいる人たちに、どういう心がまえで臨んだらいいか。そういうことをちょっと話してください。

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